大会レポート [ report ]

評価コメント

2020.02.25

ロボットアイデア甲子園全国大会出場者の皆様

ロボットアイデア甲子園審査委員長 
佐藤 知正(東京大学名誉教授)


 当日の評価を知りたがっている旨、参加された方々から問い合わせがありました。
 実行委員長の奥山剛旭様とも相談し、審査委員長である佐藤から審査委員長としての「全体を俯瞰した評価コメント」を、お届けすることになりました。
 今後の皆様の活動に役立てください。

 

 

【ロボットアイデア甲子園の趣旨と参加御礼】
 ロボットアイデア甲子園は、ロボットシステムインテグレータの認知度向上と、参加者の成長を趣旨として開催されました。皆様のご参加、ありがとうございました。
 地方大会を経て、内容をリファインしたうえで全国大会に臨まれたこともあり、とても質が高く、よく考えられた洗練されたアイデアのプレゼンテーションが競われる場となりました。心より感謝いたしますとともに、皆様のご健闘を讃えるものです。

 

【評価された点、優れた点】
 以下に、皆様の発表の、評価された内容、優れた点を、整理して示します。


◆加藤勇典君(山梨県立甲府工業高等学校、電子科1年生)の自転車整理ロボットのアイデアは、例えば駅前の自転車置き場を整理する身近なロボットの提案(市場性)に関するものでした。自転車のどこを把持するのかまで踏み込んだ提案で(創造性)、SDG’sを含め将来広く利用される分野を広く、体系的に考察したものでした(社会性)。
 また、複数のカメラを天井に複数設置する(実現性)など、具体性のあるよく考えられた内容でありました(実用性)。しかも過度にならないぎりぎりの範囲で、情にも訴えながら発表した点(アピール性)などが、他より抜きん出ていると評価されました。


◆山根朱由乃様(熊本県立翔陽高等学校、2年生)の”A.C.R. -Automatic Cooking Robot-”は、ハンバーガー調理ロボット(市場性)に関するアイデアで、それを”1台のロボットの周りに、様々な作業ユニットをロボットと繋げることで(創造性)、ハンバーガーセットを完成させる”(実現性)という提案でした。
 ニーズも、実現性もあり、それをドリンクモジュール追加などの展開も含めてアピールした点(アピール性)が、高く評価されました。


◆布施聡視君(岐阜県立岐阜工業高等学校、電子機械科3年生)のブリッジ・イエローは、イタリアのモランディ橋の崩落写真から始まるプレゼンテーションで、先進国の喫緊で切実な社会課題であるインフラ老朽化に対して(社会性)、橋の点検作業を6軸のロングアームを使って実現するというアイデア(創造性)を、きれいな線のポンチ絵を使って提示し(表現性)、自治体に買ってもらう(市場性)など、その展開を熱く語った(アピール性)ところが評価されました。
 また、これ以外のアイデアも、以下のように、私のような年寄りの頭では、とても、考えつかないような、感服するものばかりでした。


◆北山未羽君(小山工業高等専門学校、4年生)のドローンを用いた運搬ロボットの提案D-CAR”は、ドローンとロボットマニピュレータを組み合わせたアイデアで、従来の運搬ロボットの課題から説き起こした解決策の発表は、注目されるものでした。


◆植木駿介君(茨城県立つくば工科高等学校、2年生)のアートサポートロボットは、人と協力して理想の絵を作りあげるロボットのアイデアで、球面にも書ける、実はAIがすでに描いた絵がある、などと主張しました。
 現実には、実現は難しいかもしれないが、出来たら文化へも貢献する”と述べました。少し迷いがあったかな?


◆沖優翔君(静岡県立焼津水産高等学校、2年生)の自動船底整備ロボットのアイデアは、船底を掃除するロボットの提案で、藤壺がついた船底の汚れの写真はその切実性を訴えたものでした。
 また、最後の”世界を目指す”というスライドは、高圧洗浄、さび落とし、塗装作業の具体的な説明スライドとともに、漁船に乗るという自分の作業体験に基づいた現実味ある広がりを訴えていました。


◆佐藤亘君(静岡県立科学技術高等学校、ロボット工学科2年生)の”Dream Barber382”は、「いつもので」とか、「おまかせで」とかのお客様の要望もふまえて、自動で髪をきってくれる、環境を含めたロボット化のユニークなアイデアでした。
 発表も、起承転結のはっきりしたもので、全国大会後の感想文ともども、とても、示唆に富むものでありました。


◆廣瀬桂樹君(静岡県立沼津工業高等学校、電子ロボット科1年生)のアイテム収納型お供ロボット”は、2年次のインターンシップ先で経験した「自動車のワイヤーハーネス製作」や「マルチカラー情報板の製作」時に感じた作業者の忙しさやケアレスミスを防ぐ目的で考えられた道具を出してくれるロボットのアイデアでした。
 お供ロボットという考えは、重要であると考えています。デイ―プラニングやRFIDなどを使って実現し、世界へ打って出れば、7億の利益になるとの主張は、迫力がありました。


◆山﨑太一朗君(静岡県立掛川工業高等学校、3年生)の汎用型介護支援ロボットは、施設での洗濯を自動化するロボットの提案でした。
 長い間、介護支援ロボットの研究に関わっていた筆者の目から見ても、技術の可能性も示された具体的、実用的なアイデアであり、提案内容(結論)が先に示されたトトップダウン的プレゼンテーションは、とてもわかりやすいものでした。


◆中筋朱里様(大阪府立佐野工科高等学校、3年生)の横断支援ロボットは、登校時の学童のみまもり(全国で16000校あり)という社会課題に対し、”みているのに事故が起きる”ことに対抗できることを主張する提案でした。
 一緒に横断することで安全をまもってくれるロボットのアイデアは、ふるさと納税でゆれる泉佐野市の例をひくことで歓心を得ながらの説明や、今後の展開のためには自動車の自動走行システムとの連動も必要であるとの主張とともに、説得力のあるものでした。


◆岩田瑞希様(尼崎市立尼崎双星高等学校、2年生)のゴミ拾いロボットは、ハロウイーン後の花火などのごみ問題など、身近な事項で必要性を説明し、スマホでロボットの全設定可能など、実現可能性を主張したものでした。
 「ゴミ」と「必要な物・落し物・忘れ物」等の区別は人工知能で判断するという主張は、とても困難性が高いだろうなと思われますが、地域のイベントや子ども向けイベントで、このロボットが利用できることはゴミ問題を考える上においても効果が期待出来るという主張は、教育的視点や心理的視点も含んだもので、印象的なものでした。

 

【ロボットアイデア甲子園は、”きっかけ”にすぎません】
  以上、記載したコメントは、あくまで、実行委員長の個人的な、現時点での評価にすぎません。評価に一喜一憂する必要は、全くありません。
 むしろ、このようなコンテストでは、優勝できても、できなくても、コンテストの結果ではなく、コンテストを、自分に何が足りなかったのかを考える”きっかけ”として活用することが大事なのです。
 この目的は、前述の評価された点に対するコメント文章を読み、他の人のコメントには指摘されている評価された点が、自分のコメントには、なぜ、ないのかを考える材料として、利用してもらいたいのです。
 つまり、コンテストは、自分が足りなかった部分を深く考え、何を学べばよいのかを考えるいいスタート点なのです。学ぶべきことを知り、それを実行することで、成長へつなげる重要な機会なのです。学びかたを学ぶ”機会”であり、それを契機とし、継続的に必要な学びを積み上げることで、成長しつづけてゆく、大事な発端なのです。
 このことを、今の教育の潮流の視点から説明します。中世の宗教の時代を経て人類は今、科学技術の時代を迎えております。新しい科学技術が世の中を変え、科学技術の組み合わせが新しい価値を創り出す時代を迎えています。携帯電話とインターネッとの組み合わせがスマートフォンを生み、スマホが我々の生活を一変させたことは、皆様が経験し実感していると思います。
 また、今は、学校で学んだ科学技術の知識がすぐに陳腐化するほど目まぐるしく変化する時代です。つまり、皆様にとっては、“学び方を学ぶ”ことが、重要な時代となっているのです。従って、教育のやりかたも、これまでの講義主体の教育(Course Module Driven Education)から、今回のロボットアイデア甲子園のようなコンテストやチャレンジ活動を主体とした教育(Project Module Driven Education)に変化しつつあるのです。ロボットアイデア甲子園は、この意味で世界の潮流にそった、意義のある学びの機会なのです。

 

【今回の発表をきっかけに”学び方を学び”、”継続的に学び”、成長して下さい】
 私も、ユーチューブにプレゼンテーション手法について、アップロードしました。
 今回、これを参考にされた参加者もおられるとおもいます。そこでは、なぜ、今回のロボットアイデア甲子園の評価項目が、『社会性、創造性、実現性、市場性、アピール性、表現性』なのか、その意義は、何なのか。そして、それらをより強力なものにするには、どのように考え、どのような手段を講じればよいのかを説明しました。今回の佐藤の評価コメントを読まれた後、再度、見直していただければ、幸いです。
 さらに、世の中には、優れたアイデアを生む発想手法や、アイデアや技術の錬成・熟成を効率的に可能する技法、さらには、アイデアや技術の社会普及を推進加速する有効な手法(例えばマーケティング法)など、数多くの有効に活用できる手法や知恵が存在しています。
 自分で何を学ぶべきかを考え、上述したような手法の中から選択し、それを自主的に学んでゆくことを期待します。皆様が、この大会をひとつの”きっかけ”としてとらえ、何を学べばよいのかを考え、根気強く必要な学びを実行してゆかれることを望むものです。
 ロボットは新しいアイデアがどんどん出てくる分野であります。そして、このようなロボットのアイデアを、システムとして実現し、社会に導入し普及させる担い手が、ロボットシステムインテグレータであります。
 最後になりますが、今回のロボットアイデア甲子園全国大会への参加(チャレンジ)をきっかけに、皆様が、ロボットシステムインテグレータという仕事に理解を深め、ロボットアイデア甲子園への参加というチャレンジを通じて、学び方を学び、必要な学びを実行することで、結果として、ロボットイノベーション(ロボットやロボット技術による社会変革)の担い手として成長し、地球や人類の持続性を阻む課題に果敢に挑戦し続け、世界貢献していただくことを、願ってやみません。